【どこへ行っても三歩で忘れる鳥頭紀行 くりくり編】 西原理恵子
どこへ行っても三歩で忘れる鳥頭紀行 くりくり編 (角川文庫)
どこから突っ込んだらよいか解らない。
そういう瞬間が誰にでもあります。
たとえば、以前ゲーセンのトイレに入ってたら、丑の刻参りのごとき勢いでドアをどんどんされ、慌てて個室から出たら、両手に書類とティッシュテーパー(ボックス)を抱えた姉ちゃんが、口から泡を噴きながら立っていました。
都会は怖い、と痛感した一瞬です、何事もなかったように走って逃げましたが。
......いや、これでは比喩が適切ではないですね。
松尾スズキの戯曲を初めて読んだときのような、置いてきぼり感と言いますか。
過剰なもの、常軌を逸したものを見たとき、ポカーンとしつつも無意識のうちに目を凝らしてしまうこと、ありませんか?
私は、西原理恵子の漫画に出会ったとき、まさしくそんな状態でした。
下書き無しに描き殴ったような画風、酷過ぎる罵詈雑言、細かく書き込んである割りには中身があるんだか無いんだか解らない......
昨今の、コンピュータ処理を施し、美麗以外の何物でもない漫画作品とは対極にあると思いました。
西原さんは、今年の四月から「毎日かあさん」という作品がアニメ化されていますから、知っている方も多いのではないでしょうか。
うちの古書店にも何冊か有りますが、回転は速いです。人気があるということなんですね。
特に、彼女の体を張った取材漫画には定評が有り、「できるかなシリーズ」なんか、特に人気が高いのではないでしょうか。
彼女は漫画界では他の追随を許さない無頼派としての地位を確立しています。
類似品作家として、くらたまさんなどもいらっしゃるようですが、「だめんずうお~か~」なんて、西原さんの漫画を前にしたら生温くて腐敗しそうな感じです。
さて、数ある旅行記・ギャンブル記・日記などの中で今回とりあげるのは「鳥頭紀行くりくり編」です。
くりくり?ってなんやねん??っと思ったら、その謎はページを開いてみれば解ります。
西原さんが、異国の寺に出家して、ツルッパゲになっています。
「これがくりくりか!!!」
と、衝撃を受けること必須です。
いくら身体を張るったって、女の命である髪の毛をつるつるにしてしまうその気概!
世の中に、ピンサロ嬢やヘルス嬢の実体験漫画は多々あれど、出家してつるっぱげ漫画なんて、どこを探してもこれぐらいではないでしょうか。
瀬戸内寂聴さんとかも尼さんだけど、ケータイ小説は描いても漫画は描かなさそうだしなぁ。
西原さんは、カメラマンの鴨志田(故・旦那)と友人のゲッツ板谷と共に、寺で金銭欲やら出世欲やら何やらを断ち切るべく修行に励むわけですが、全くといって良いほど、解脱していません。
現世の垢を落とせと言われても、垢だけを練り上げて生まれたような3人から、それを奪って何が出来ましょう。
むしろ奪うことなど無理なのですね、きっと。
だって出家の先輩とも言えるべき鴨志田さんが、ゲッツさんから奪ったタバコをバカスカふかしているような現状ですから。
ですが、その無頼さ、禁欲的な空間にいながらにして、ほとばしる人間臭さが、逆に清々しくもあり、笑いを誘います。
出家編の他にも、日本に戻ってタコ漁編や、ドイツの古城で結婚式編など、西原・鴨志田ファンには必見のイベント漫画も収録。
特に、「毎日かあさん」で、鴨志田さんの死に至るまでの闘病を読み、ファンになってしまった方なんかにも、充分楽しめる内容となっています。
元気だった頃の彼を見て、思わずホロリとしてしまう場面も。
西原さんの作品については今後ともいくつかレビューを書いていく予定ですが、とりあえず一発目はこのへんで。
それにしても、寺から出る直前に、異国の僧が西原さんに「何でもよいです、どんどんやりなさい」的なことを笑顔で言うシーンに、仏教の懐の深さを知りましたね。
その後、さっそく現地の蟹を貪り食べる西原さんの悪魔のような表情も素敵ですが......。
文庫だと字が小さくて読みづらいのが難点ですが、じっくり何度も読み返せる、素敵な本です。
汚い言葉使いや、下ネタが苦手な人には、あまりオススメはしません。
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