【東京ゴミ袋】 瀬戸山玄
東京ゴミ袋 (ちくま文庫) (文庫)
瀬戸山 玄 (著)
出版社からのコメント
■■拾い集めた人間模様の記録■■
ゴミ箱というパンドラの箱を開けると、ツーンとした臭いの先に、都市生活者の事情が見えてくる。
風俗嬢、ファストフード店、相撲部屋、不法滞在外国人、極道一家、新々宗教団体......のゴミ袋のなかに押し込まれたそれぞれの素顔。
本音と建前、虚栄心と劣等感が入り混じる欲望の残滓を捉えた写真ルポです。
あとがきより
たとえば、動物学者たちのフィールドワークは野生動物の排泄物を山野に捜すところから始まる。つまり出口から入口を探ろうというわけである。同様に、都会のあちらこちらに出向いてゴミをサンプリングする作業もまた、都市生活の隠れた部分を考察するために編み出した自己流の変化球だった。
しかしこの試みも、ともすれば他人のプライバシーへの関わりという点で、一歩誤ると卑俗なのぞき趣味に転落しかねないフィールドワークだ。このことも含みおきながら観察者がゴミに一番強く求めたもの、それは空虚に記号化して氾濫する情報ではなく、実体として存在する生活断片だった。その意味においてゴミはまさしく紛れもないある個人の、ある集団の、ある地域の生々しい情報だった。と同時にそれは彼や彼等を鮮明に物語る細々とした人間模様の山でもあった。また、空カンから核廃棄物にいたるまで、究極の使い捨て時代に揺れる都市のゴミ問題を、ヒトの執着の履歴としてたぐる、路上の視点から捉えてみたいという目論見もあった。
ここから書評です。
唐突ですが、私、ちくま文庫が大好きなんですよ。
実家に帰省する際なんて、書店で1~2冊は必ず購入していると思います。
とくに、写真が充実していて、勿論値段はそれなりに張りますけれど、それぞれ期待を裏切らない一冊になっていますね。
で、今回取り上げるのは「東京ゴミ袋」です。
タイトルのまんま、内容は「東京のゴミ袋......をひっちゃぶいた中身」です。
まだゴミ袋が真っ黒で、中身になにが入っているのか、解らなかった80年代。
私も、幼い頃のおぼろげな記憶の中に、ゴミ収集日の朝になると、電信柱の下に要塞のように積み重なった黒いゴミ袋の姿を思い出します。
今現在の半透明(というか、透明?もしくは白)のゴミ袋に変わってから、確かに犯罪は減ったようですが、同時に様々なプライバシーというか、いろんなことが恥ずかしげも無く路上に露呈しているようにも感じられます。
黒いゴミ袋を見たとき、漆黒のビニールの向こうに、何かとんでもない秘密が隠されているのではないか?とハラハラした経験が、20代以降の方には少なからずあるのではないでしょうか。
そんな好奇心と知識欲(ただの覗き趣味?)を充分に満足させてくれるのが、この一冊です。
まず、装丁自体がもう既に「うっ......」となりませんか?なりませんか??
黒い地面の上に、不規則な亀裂を覗かせて横たわるスイカと思われる果物。
白く粉をふいた果実の表面と裏腹に、傷んだ中身は内臓とも思しき鮮やかな色彩を見せています。
最早、表紙からして、「黒いゴミ袋から垣間見える人間の赤裸々な部分」を連想させているわけです。
(深読みかもしれないですけれどね!!)
そんなメタ芸術やエッシャーのだまし絵なんぞを勝手に連想しながら、中身を開くと、内容もこれまた凄い。
風俗嬢や不法滞在外国人といった、如何にもサブカルがウッホウホ喜びそうなキナ臭いものから、相撲部屋などという想像できないような場所のゴミまで、ザバザバと曝け出し、フィルムにおさめていきます。
あまりにも生々しい写真の数々に、想像を掻き立てられるということを通り越して、「これ以上色々と想像させないで!」と叫びたくなるような場面もしばしば。
勿論、バッチイものや臭そうなものもありますから、そういうものがダメな潔癖な方はもうこの時点でアウトでしょう。
良い本だと思いますが、引き留めはしません、どうぞ夢に出ないうちにその場を立ち去りましょう。
しかし、ゴミというのは奥深いものです。
出版社からの紹介文に、動物の糞から生態を調査する、とありますが、まさにその通り。
ゴミというのは、かつて自分が必要として、吸収し、屠り尽くしたものの残滓であり、自分の分身なのです。
私達は、自分の紹介をするとき、「自分に必要なもの」をあげるのと同じくらい、「自分にはいらないもの」を語ることが、何よりも自らを語ることに、もっと気づくべきでしょう。
(「インテリで細身な男性が好き」と言うのと「体格が良くて脳みそ筋肉な男性は絶対嫌」と言うことって、実は同じことを言っていると思いませんか?)
今の時代にこれと同じような写真ルポをやらかしたら、即行で警察にパクられることが予想されます。
時代は一昔前と思われるかもしれませんが、80年代の暗いゴミ袋の向こうには、現代と変わらぬ人間の生活と欲望が渦巻いているのです。
もし、
「このままじゃ趣味でひとんち覗きそう」
なんて、ギリギリな性癖一歩手前の方がいたら、犯罪に手を染める前にこの一冊!!
他人の秘密を覗く快感に味をしめてしまったら危険ですが、そこはあくまで自己責任でお願いします。
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