【極楽・大祭・皇帝―笙野頼子初期作品集】 笙野頼子
輪切りの地獄、鼠硝子、自閉帝国...究極の地獄絵を求める密室画家、「地獄変」の書き変えを志した「極楽」。祝祭の日、父親殺しの妄想へと走る小学生「大祭」。自閉帝国を求める白衣の殺人者、長篇「皇帝」。二十五歳で群像新人賞を受賞した芥川賞、三島賞、野間文芸新人賞作家が、暗黒の八〇年代を注ぎ込んだ引きこもり・憎悪小説集。
内容(「BOOK」データベースより)
はい。ここまでの説明を読んだところで、果たしてこの本を手に取ろうと思う方、何人いるんでしょうね。
何というか、このような紹介文だけ読んでしまうと、結構な語弊を招く可能性があるような......。
実際ね、この本を手にとって、このようなデータベースを読んだとき
「これ......ちょっと昔の角川ホラー文庫?」
と危惧してしまうような、何というか、おどろおどろしい印象を感じました。
「憎悪小説集」って煽り文が、またアレな感じですよねー、アレってどれだって言われたら、ちょっと困りますけど。
笙野頼子、という作家自体、そんなに文壇で好かれている人物ではないようです。
実際、大塚英志と文壇でギャイギャイやりあったそうで......内容は大塚英志が「売れない純文学は商品として劣る」と言ったことに対して抗議したのが始まりとかなんとか。
その後、大塚英志は文学フリマ(文芸創作同人誌の即売会※以前は秋葉原だったが、2009年度に蒲田に開催地移転)の開催の立ち上げに関わったりしたそうですが、そのときにもまたひと悶着あったようです。
そんなに食いついたら、そりゃーアンタ自分で自分のことを売れないヒステリック純文作家だと言っているように聞こえる人もいるんじゃ......と心配になりますが、実際小説なんてものは大衆文学になり下がって、多数の消費者にタバコやカップラーメンのごとくぽいぽい消費されるベストセラーになるか、ファンは少なくとも、それでも出版社を通して何刷りかされるというだけで何千人という支援者がいる濃厚な純文学になるか、そのようなふたつに分類されるのかな、とも思います。
どちらも、出版市場を支えるには大切なことなんでしょうけどねー。
と、話がそれました。
閑話休題。
で、この初期作品集です。
笙野頼子は、このみっつの作品を発表した後、暗黒期と呼ばれる10年間のスランプ(というかボツになりまくり時代?)を過ごしたそうですが、この作品集を読む限りだと、とてもそんな才能が枯渇しそうな人には見えないんだがなぁ......。
時代との相性、というのもあるのかもしれないですね。
「極楽」は群像新人賞受賞作品で、芥川龍之介の「地獄変」を元に執筆されたものです。
正直、良さはよくわかりませんでした自分には。
ですが、描写の重々しさや鮮やかさはさすが。
「大祭」は、子供の視点で書かれた作品ですが、少年の視点だと思って油断してみると大間違い。
むしろ、子供特有の不穏な感覚、両親に対する疑念や嫌悪、稚拙な悪意が殺意に変化するまでの流れは、現代の10代後半~20代前半向けの鬱々とした成長小説なんかを軽く凌駕するパワーがあります。
本当に、うっかり油断して読み進めていたら、ドスンと奈落の底に突き落とされる気分になります。
内容は、ひきこもりの少年(小学生なんですが、この子の描写が、また子供だからといって心温まるものなんか一切見られない、だがそこが良い)が、50年に一度の「大祭」に思いを馳せる話。
ですが、彼は少々性格に難あり(というか、彼の両親が望むような「良い子」ではなかっただけかもしれない)なので、親に行くことを禁止されるわけです。
こうして短くまとめると、「昔話か」とのツッコミもあるかもしれませんが、まぁそう思った人は読んでみると良いです、本当に、衝撃受けるから。
「皇帝」は、社会との関わりを完全に遮断した帝国をつくり出すことを夢想するひきこもりの話。
「皇帝」とは、日々、「おまえはおまえだ」声に怯えながらも、「いや、私は私ではない、皇帝なのだ」と呟くひきこもりの男のことです。
彼の倒錯した生活スタイルが、またとんでもなく徹底していて、面白い。
日に二度の神経症とも言うべき入浴、10日に一度だけ、買い物に行く際は、女装をし「巫女」と自らを称し、ひたすら白いもの(豆腐・砂糖・塩・米など)だけを買い込む。
そして徐々に彼を現在の彼たらしめる過去の出来事が明らかになっていくわけなのですが、ブックデータベースには「殺人者」と書いてありますが、実際に彼が殺人を犯したのかどうかは、明らかにされていません。
もしかしたら、一連の過去の記憶も、彼が自分を皇帝と名乗る為の、何らかのレプリカントかもしれないのです。
とにかく、最後まで読んでみましょう、この作品は、もうそうとしか言えないです。
最後まで読んでも、また最初に戻って読みなおさなきゃやってらんないような、そんな衝動に駆られます。
この、永遠に続く心理状態のループは、夢野久作の「ドグラ・マグラ」を彷彿とします。
と、短編集と言っておきながら、感想・内容は広辞苑並みにぎっちり詰まった、非常に読み応えがある作品集です。
この作品集を単なる憎悪作品集とか、ひきこもり文学の先駆けという言葉で済ましてしまうのは、非常にもったいないと思います。
読み終わった後に、晴れやかな気分にはなりませんが、自分の感受性レベルが数段階上がったようにも感じられます。
そういう、感動や癒しを与えられるだけでなく、読むことで読者側も一段階成長したような気分にさせてくれる小説は、本当に稀有です。
小説なんて難しいしー、なんて言ってる若者も、この本を読んでみれ、難しいなんてもんじゃないから。
ですが、登場人物の名前は結構現代っぽかったりで、ところどころに取っ付き易さや散りばめられているところも、アンバランスな感じで良いです。
最近の純文学じゃ物足りないぜ!って猛者、どうぞ挑戦なさってください。
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