【ヘルタースケルター】 岡崎京子
ヘルタースケルター (Feelコミックス) (コミック)
岡崎 京子 (著)
ヘルタースケルター (Feelコミックス)
「もとのままのもんは骨と目ん玉と髪と耳とアソコぐらいなもんでね あとは全部つくりもんなのさ」。大掛かりな全身の整形手術とメンテナンスにより、完璧な美しさを持つモデルの「りりこ」。女優や歌手としても活躍し人気の絶頂を迎えるが、体は次々に異常を訴え始める。それにつれてりりこの心の闇も濃く、深くなり、彼女の人生はやがて手もつけられなくなるほどに壊れてゆく。
りりこをスカウトして、美しく変貌させたモデル事務所の社長。ひどい仕打ちをされても、りりこから離れられないマネージャーとその恋人。生まれながらに美しいがゆえに、美に執着しない15歳の新人モデル。最後まで、りりこを美しく仕上げることに全力を注ぐメーク担当者。ある事件を追いかけるうちにりりこに出会い、シンパシーを感じ始める検事。りりこをとりまく人々も絶妙に配置され、この物語を重層的で刺激的なものにしている。
醜かった主人公が美しく生まれ変わり、成功をおさめる。たくさんの物語で描かれてきた、わかりやすくてドラマチックなその過程は、本書ではほんの少し触れられているにすぎない。はじめからりりこは美しく成功の真っ只中にいて、彼女の向う先は破滅でしかないという不穏な空気が、物語の最初から濃厚に漂う。その破滅の過程を、著者は、息苦しくなるほど丹念に描いていく。最終章で描かれる、りりこの決着のつけ方は壮絶であるが、そこに含まれる不思議な「明るさ」のようなものが、読者の心をとらえて放さない。(門倉紫麻)
出版社/著者からの内容紹介
世紀を越えた傑作、ついに初単行本化!!
いつも一人の女の子のことを書こうと思っている。
いつも。たった一人の。一人ぼっちの。
一人の女の子の落ちかたというものを。(岡崎京子)
と、以上がデータベースからの抜粋です。
あれ、これ、私が改めて内容紹介するまでもないんじゃ......。
大体のストーリーは上記の通りです。
人気絶頂トップモデルの全身整形美女が、華々しく陥落していく様をこの上無く都会のクールなエッセンスを効かせて描きあげた傑作です。
それだけじゃつまらないので、個人的な感想をば。
この作品のテーマは、「ブスが整形して成功し、やがてツケが回ってきて崩壊する」という、一見使い古されたボロ雑巾のような、わかりやすいテーマです。
しかし、王道には王道たる所以があると、私は思います。
たとえば、恋人が不治の病になったら悲しいし、戦争で離ればなれになった親子がお互いを探し求めるのも解り易い感動を誘います。
しかし、王道は金太郎飴のように、どこをどう切っても簡単に予測できて、どこを舐めても同じ味しかしないものではない筈です。
抽象的な話になりますが、王道は、ある種の心理への太いトンネルのように思えます。
一見すると、向かう先が筒抜けで解り易く、私達はつい安心してしまいがちですが、こちらが向こうを無渡せるように、こちらは向こうから押し寄せてくる何かから免れることが出来ません。
岡崎京子の漫画は、解しやすいテーマとキャラクターを使っているにも関わらず、そのように読者を油断させ、どうにも逃げられない状態まで引き込み、一気に深淵へ引きずり込むパワーを持っています。
まさしく、こちらが地獄を覗きこむとき、地獄もこちらを覗いているのだ、と思い知らされる一冊ですね、しかも、「これは危険だ」と感じたときには、時既に遅し。
もう、私達は彼女の手中にすっぽりとおさまっているのです。
肝心の内容ですが、これは某ファッション雑誌に連載されたものを、一冊の単行本にまとめたものです。
舞台は都会で、主人公の整形美女である「りりこ」は、太って醜い身体を極端な美容整形と薬物によって矯正し、時代のトップスターにのし上がります。
しかし、彼女の狂暴なまでの欲望は、徐々に彼女自身の均衡を崩し、マネージャーや事務所社長、はたまた刑事まで巻き込み、坂を転がり落ちるように疾走していきます。
彼女をりりこたらしめる為に、整形や薬物を施した事務所社長は、りりこに自分の若い頃に果たせなかった思いを託そうとします(社長の若い頃の写真、というのがりりこそっくりなんですよ)
そして、りりこもそれを承知しており、自分が社長のレプリカだと、自覚しているんですね。
そして、今現在自分が突き進んでいる道も、自分ではなく社長の、いうなれば、世間一般の女子の、欲望の衝動であると知っているんです。
そして、それでも走り続ける。
彼女は、いったい何故そこまで走り続けるのか。
それを聞くのは、最早愚問かもしれません。
作中に
「みんな何でもどんどん忘れてゆき ただ欲望だけが変わらずあり、そこを通り過ぎる名前だけが変わっていった」
というセリフがあるように、りりこは、80〜90年代の女子が抱えていた、スパンコールとブランドバッグが色どる、「欲望」そのものだからです。
これは、あくまでも「欲に狂った」や「欲望の権化」とかではなく、純粋な「欲望」です。
彼女は、自分じゃない何かになることを求めて、迷いなく、想像を絶する身体的・精神的な痛みに耐えて走ります。
その姿は、心理を求めるサドゥ(苦行者)の如く、狂気を孕んだ聖性に満ち満ちています。
りりこは、ストーリーの最初が一番のピークで、そこから徐々に墜落していきます。
若い、天性の美しさを持ったモデルの登場。
薬物の影響で増していくアザ、抜ける髪の毛。
気を紛らわす為の、残酷で消耗するだけのセックス。
恋人だと信じていた、御曹司の裏切り。
そして、彼女を維持する為に必要不可欠だった、美容整形クリニックの摘発――。
ラストは、まさしく衝撃です。
誰しもが、りりこの破滅と崩壊を想像しますが、彼女はそのような一筋縄な道を行きません。
かと言って、崩れかけた身体を再び整形し、返り咲くなどという陳腐なカタルシスも起きません。
どんなラストが訪れるのか、正直、私にはまったく想像でつきませんでした。
ホラーでも、バイオレンスでも、ハッピーでも無い。
でも、この上なく爽快な終わり方です。
これを漫画喫茶で読んで、都会の恐ろしさと、その途方もない暗さに、逆に希望を見出したへそ曲がりは、私だけではない、筈。
女性ものコミックなんて、辻仁成と山田詠美のバッタモンでしょ?と鼻で笑う貴方にこそ、読んでほしい一冊です。
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