季節をビンに詰め込んで―果実酒のはなし
季節をビンに詰め込んで―果実酒のはなし (単行本)
石村 由起子 (著)
最近、このブログを書く度に「おひさしぶりでっす!おっす先輩!」的なノリで本当に申し訳ありません。
最近、うちの古書店では販売よりも買取の量が増えて来ているので、そちらの処理で結構てんやわんやしています。
しかしながら、悩されるくらい買取依頼が来るのだから、お客様に恵まれています、本当に。
店員の私はこんなアッパラチーッパッパなブログを書いていますが、対応には自信がありますよ!本性出してるのはここだけ、ということで、割り切って読んでください(お前何様)
すっごい余談ですが、洋書の古い本の検品をしていると、何だか萎びて酸っぱい臭いがすることがあります。
え、なにこれ......でも、何だか懐かしい......ドキドキ、と無い胸を高鳴らせていたら、何のことは無し、昔昔に祖母に「酸っべぐねっでぎゃー、めぇんだど!(訳・酸っぱくなってからが、美味しいのよ)」と言われて食べさせられていた白菜の古漬けの臭いと同じわけです。
ちなみに、聖書からはたまに桜餅の匂いがするし、こないだ買った文庫からは香水の匂いがしました。
改めて、本は持ち主の匂いを吸い込む生き物だなー、と思い知らされている所存です。
しっかし、古漬けも度を超すと関取のような匂いになるので(実際に関取を嗅ぎまわったことはないですが)、最初は古漬けだったのに、最終的には新弟子稽古に紛れ込んだような気分になります。
閑話休題。
まったく関係ない前振りが長くなりましたが、今回紹介するのは果実酒の本です。
一般的に普及しているレシピ本と大きく異なるのは、その写真の持つ風情、言わば気配や匂いといったものでしょうか。
充実したフルカラー写真が多数掲載されているという点は、昨今の日本のレシピ本の系譜を確かに辿っているのでしょうが、肝心の実際にどうやって作るか?瓶はどうやって消毒するのか?といった手順は、本文の合間にたった数ページくらいしか掲載されていません。
あとは、写真に手短に添えられたレシピ・分量と、作者によるエッセイ(コラム?)がメインになっています。
確かに、果実酒や漬物は、素材が違えば処理は違えど、その調理過程に大幅な変更は無いわけですから、注意点があるとしたら、元のレシピに書き添えれば良いわけです(この果物だけだと酸味が足りないからレモンを足すとか、かんきつ類を漬け込む際はエグ味が出るから皮は剥くこと、とか)
写真もほとんどが、数年の漬け込みでは到底滲み出ないことが容易に想像出来る、橙色の温かみを感じるものとなっています(表紙参照)
たまに漬けこんですぐの、まるで湧水で冷やされる果物のような、透明感溢れる写真も掲載されていて、その対比のバランスも心憎いですね。
私自身、果実酒を趣味で漬けているのですが、書店で見掛ける本はそのほとんどが「漬けこみ直後〜漬け込んでから3年くらい」を目安に、清潔・ジューシー・飲みやすい!を売り込もうとしているカラフルな写真で溢れています。
そういう本を読みながら、「何だか違和感」と感じていたところ、この本に出会ったのです。
そうそう、実家の10年物の梅酒は、ブランデーで漬けたわけでも無いのにこういう色をしていたっけ......そんな、懐かしさが味わえるのも良いところ。
そもそも果実酒や酒は食卓の友として、というより、その薬効を重視されてきた節がありますから、じっくりエキスを抽出した、言わば漢方のような嗜好品なんですよね。
そんなことを思い出させてくれます。
この本のメリット・デメリットは、そこに有るんじゃないか?と私は思います。
写真では、まるで標本を漬けるような年季を感じさせるガラス瓶に、これまたすっかり脱色されて「え、もしやこれグロ画像?」と受け取る人もいるのではないか?と心配になるような、肌色のぶよぶよした果物が漂っているわけです(これがまた理科室のアレに似て医療品好きな少女にはたまらないかと)、実際、コケモモの果実酒なんぞは、どこの部位ですか?と思ったほどです。
また、他のレシピ本と決定的に違うのは、「失敗作・失敗談」も掲載しているところです。
よく、レシピ本で「コレをアレするとこうなっちゃうからダメ!」とは書いてあっても、実際にそれを行ったらどうなったか、まで載せている本は少ないのではないでしょうか?
もちろん、そういった苦い経験もあって、このような本が作られるわけですが、「成功した話を聞かないと、意味が無い」というサクセス思考な方には、そこは余計な部分と感じてしまうかもしれないですね。
私にとっては、逆にそういった部分はプラスに感じられました。
柔らかくシワが寄った果物は、その分美味しい果実酒を作る為にその身を窶してくれているのですから。
むしろ、色が抜けて日向の色に染まった果物は、体温すら感じられるようで、官能的にさえ見えます。
失敗談も、どうしてそういう結果に陥ったのか、コラムが添えられているので、興味深く読むことができました。
何をするときにも言えることですが、明日は我が身、と言いますから。
こうして失敗談を読めるレシピ本(というよりも、作品集?)は、貴重な存在だと言えましょう。
作者の石村由起子さんは、奈良で雑貨&カフェ「くるみの木」を開いています。
2004年からは「秋篠の森」と名付けた森で、ホテル「ノワ・ラスール」、食の円居「なず菜」、ざっか「月草」を営んでいるとか。
ウエブで検索すると、サイトも出てきますよ。
ロハスな方にオススメです、何か雰囲気も柔らかくて。
あ、最後になりましたが、目次を一部抜粋させていただきますね。
(目次より一部抜粋)
・白いちご酒
・青じそ酒
・温州みかん酒
・乾燥薔薇酒と桜酒
・姫りんご酒
・山桃酒ときんかん酒
・さるなし酒
・ブラックベリー酒
・漬けたいちごとバナナのジャム
・皮ごとのすだち酒
・漬けるにあたって ほか
もう名前を見ただけでうずうずしてきませんか?しませんか。そうですか......。
じゃなくて、新刊書店にもまだ置いてあると思いますので、機会が有れば、ブツクサ言わずに読んで見てください。
懐かしさと、発見に酔えるかもしれませんよ。
季節をビンに詰め込んで―果実酒のはなし
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