【寝言サイズの断末魔―いい年コイた大人の絵日記〈其之1〉】 松尾スズキ 





寝言サイズの断末魔―いい年コイた大人の絵日記〈其之1〉 (扶桑社SPA!文庫) (文庫)
松尾 スズキ (著)

寝言サイズの断末魔―いい年コイた大人の絵日記〈其之1〉 (扶桑社SPA!文庫)




芸能人のブログというものに、ほとんど興味が湧かない性質です。
芸能人、有名人とあれども、その生活の大半は「なに食った」「これ買った」「これから収録」「みんな愛してるよ☆」ぐらいのもんだろう、と考えているからです。
このような辺境(?)の書評ブログを覗いている皆様の中にも、何人かはそのような方がいらっしゃるのではないかと思います。
ですが、そんな方に私がオススメしたい一冊、それがこの本です。

この本は、週刊SPA!に連載された、松尾スズキの短編エッセイ(というよりも絵日記)です。
松尾スズキ、というと、現在では用意にチケットすら入手できない人気劇団「大人計画」の主催ですが、彼、イラストレーターでもあるんですよね。
この本にも、ひとつの日記につき、ひとつのイラストが掲載されています。
(そのイラストがまた一筋縄ではない毒を含んでいて面白い!色彩感覚的にはジミー大西ですが、脳の傷み具合は松尾さんの方が絶対上)
彼が言うことには、「大人計画」の劇団員の大半が、「もうそこらへんでやめとけよ」ということに対して「まだまだぁ」「もっとやるぅ」と駄々をこねるような過剰な人だそうですが、貴方が一番過剰ですよ!忙しさ的にも、才能的にも!
とにかく、脱帽してしまうこと請け合いです。

内容は、何のことはない、本当に絵日記です。
今日はどこそこのうどんを食ったとか、そういうどぉーでもよいことばっかり出てきます。
でも、何気ない日常(といっても一般人には解りえないぐらいにアグレッシブに多忙)を、こうも面白く書けてしまうのは、まさしく彼の文才であり、ひんまがった視点ならでは!!
とくに通学・通勤に、何も考えず、「あーしんど」な状態で読むのに適した一冊だと思います。

しかし、作家のエッセイや日記というと、川上弘美さんの「ゆっくりさよならをとなえる」とかを想像して、「ああ、一作一作がきちんとした世界観で、読んでホッとして思い出して切なくなるような、そんなものなのね......」なんて考えちゃう方、甘いですよまだまだ。
毒を吐き、仕事をこなし、週に三回飯を作ってくれたらアタリ!な嫁(現在は離婚しています、面白い嫁さんだったのに、残念)との、うっかりしたらスルスル通り過ぎてしまいそうな日常を、ここまで面白可笑しく、ときに自虐的に書き綴れるのは、さすが劇作家!といったところですね。
まぁ、多少「具合わるい」や「仕事が多忙すぎてエマージェンシー」などといった内容が多いので、読んでいて不憫に感じられる部分もあります。
読んだ人の中には、そんな彼の文章に「だったら書くなよ」と憤慨する人もおられるようですが、彼がそんなに疲労しているのも、すべては読者に観客に、作品を提供する為なんですから、大目にみてあげましょう。
むしろ、彼の「え、これも演出?」と見紛うぐらいの情けない生活ぶりを笑って許してあげれるくらいの人じゃないと、彼の作品を楽しむことはできないでしょうね(戯曲にしても日記にしても何でも)

脱力×全力×絵日記、といった一見絶対仲良くできなさそうなものが見事に共存しているこの一冊。
あまりに面白すぎて、私、油断して二冊も買ってしまいました(それはただのうっかりなだけ)
仕事したくないと騒いでみたり、仕事してなきゃやってらんないと舞台袖でニヤニヤしてみたり、そんな矛盾した感覚、くたびれた大人には必ずや共感できるものかと思います。

タレント本なんて......としぶる貴方に、むりくり押し付けたい一冊です。

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